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「当事者」のこと

8月29日
読了時間: 2分

最近、関わったプロジェクトの中で、「当事者」という言葉が出てきました。


この「当事者」という言葉は、とても日本語らしくて、ぴったりと重なる英単語がなかなか見つかりません。英語では、その人が「何の当事者なのか」によって、言い方が変わります。


今回のプロジェクトの資料に、people with lived experience という言葉がありました。直訳すると、「実際にその経験を生きてきた人」といったところかな。なるほど、と思いました。


もちろん、「当事者」がいつでも people with lived experience と訳せるわけではありません。「直接影響を受ける人」なら those directly affected と言えますし、「その出来事に関わっている人」なら people involved が自然な場合もあります。


誰のことを、どんな意味で「当事者」と呼んでいるのかによって、英語では言葉を選び直す必要があります。


たとえば、被害を受けた当事者なら victims、 文脈によっては survivors。障害のある当事者なら people with disabilities、事故の当事者なら the people involved in the accident


同じ『当事者』でも、英語にしようとすると、その人がどんな立場にいて、何を経験した人なのかを、もう一度考えなくてはいけません。


それを全部、「当事者」というひとつの言葉でふわっと包むことのできる、日本語のおおらかさよ、と思います。


その一方で、何を指しているのかをはっきりさせず、少し曖昧なままにしておくこともできます。もちろん、そこに良い悪いがあるわけではないと思います。ただ、その曖昧さの中に、言葉だけではなく、日本の文化や、人と人との距離の取り方まで見えてきて、おもしろい。



私たちはときどき、ひとつの単語の中に、たくさんの物語をぎゅうぎゅうに詰め込もうとします。そして、その単語を知ることで、何かをわかったような気持ちになることもあります。


でも本当は、ひとつの単語では表しきれないものが、たくさんある。


その人が経験してきたこと。

そのとき感じたこと。

その場の空気。

聞こえていた音。

もしかしたら香りも。


それでも私たちは、言葉を使って、誰かに何かを伝えようとします。


自分の思いを百パーセントそのまま相手に渡すことは、なかなかできないけれど、それでも伝わるように言葉を選んでいくのだと思います。うまく伝わらなくても、相手と向き合いながら、ていねいに言葉にしていく。


そんな過程を大切にすることが、言葉の豊かさなのかなと思いました。(K)


photo: 髙島野十郎展 @大阪中之島美術館


 
 
 

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